琉球古武術で使用する八種の武器、棒(六尺棒・三尺棒・エイク・九尺棒)・サイ・トンファー・ヌンチャク・二丁鎌・鉄甲・ティンベー・スルジンは、言わば長さと形状が定められた武器であります。琉球古武術では、この定型的な八種の武器についてそれぞれ使い方・基本組手を学びつつ、技の習熟度に応じて42種ある各型の分解組手や総合組手を稽古することになります。以下に各武器における特徴や用法を述べて参ります。
なお、琉球古武術の最大の目的は、八種の武器の用法に精通することによって、更にどんな形状の物・どんな長さの物・どんな大きさの物でも自由に扱うことが出来る技量、言わば無形の技量に達することにあります。
中国・河南省にある崇山少林寺は、一般的にいわゆる少林拳(拳法)の名で知られておりますが、本来は『武器術は棒(棍)を宗とし、棒(棍)は少林を宗とす』と謳われたごとく棒術(棍法)こそ少林寺武術の中心でありました。拳法はあくまでも武術訓練の基礎・基本であり、戦場で(武器として)用いることを目的としたものでは無いということです。では、なぜ棒術(棍法)が重要視されたのかと言えば、棒術(棍法)は武器術の根幹ゆえに、これを修得すれば、他の武器もおのずから使いこなすことができるからに他なりません。
琉球古武術では八種の武器・42種の型が伝えられておりますが、そのうちの22種は実に棒術(棍法)の型であります。まさにこのことは少林寺武術におけるがごとく、棒術(棍法)の重要性を雄弁に物語るものであります。琉球古武術の棒術では六尺棒・三尺棒・エイク(櫂)・九尺棒の四種類を使用します。
棒術は一本の棒を両手で操作するため、外見上は、一対の武器を左右の両手にもって片手で操作するサイやトンファーの用法とは異なるように見えます。しかし棒の操作は左右両手の力関係が絶えず変化するものであるため、その実はサイやトンファーと同じく片手で操作するものであると言えます。この特殊な片手操作のゆえに、棒の形状にもまた絶妙なバランスが要求されます。琉球古武術において、棒の太さが均一のいわゆる丸棒ではなく、中央が太くて両端の細くなるいわゆる「先細棒」が用いられる所以であります。
琉球古武術の釵術では、基本的に一対の釵をそれぞれの手に持って扱います。形状としては一般的な釵のほかに卍(まんじ)釵と呼ばれる物もあります。釵術には空手における手刀系の技法が含まれており、打つ・突く・受ける・引っ掛ける・投げる等の技法があります。
特に釵術の逆手持ち用法は、空手術の受け・突きがそのまま反映される形となっており、空手術と武器術の密生な関係性を如実に物語っております。空手術に於ける受けの形が”何故”あのような形を取るのか?を釵術を学ぶ事でより深く理解する事が可能です。
トンファーは、棒の片方の端近くに握りになるよう垂直に短い棒が付けられている形状の武器です。握り部分を持った状態で、自分の腕から肘を覆うようにして構えます。柄部分を持った特殊持ちでは鎌術の技術も応用できます。武器としての使い勝手の良さから、アメリカやヨーロッパ等では警棒としても採用もされておりますが、琉球古武術の用法とはその根本が異なります。
琉球古武術のトンファー術は、釵術と同じく一対のトンファーをそれぞれの手に持って攻防に備えます。トンファー術には空手における裏拳・肘系の技術が含まれております。特に逆手持ち用法は、釵術同様に空手術の受け・突きがそのまま反映される形となっており、空手術と武器術の密生な関係性を如実に物語っております。
棒術は琉球古武術の根幹とも言えますが、その長さゆえに携帯には不便という側面があります。ヌンチャクはそこに着目して工夫された言わば「携帯用の棒」であり、おのずから「隠し武器」としての性格を帯びております。琉球古武術においては、あくまでも一本の棒を扱うがごとく両手で操作することが定法であり、両手にヌンチャクを持つ言わば「二丁ヌンチャク」的な用法は有りません。
琉球古武術におけるヌンチャク術には「受け」はなく、体術の「捌き」を用いて攻撃には攻撃で対処するというのが特色です。もとよりヌンチャクの攻撃は片手のみで行えるものであり、そのこと自体に問題はありません。しかし、両手で操作しつつ状況に応じて様々な形で(両手で)構えることは、攻撃パターンを千変万化させるものであり、自ずから相手を惑わす効果が大であります。
鎌という道具は、湾曲した刃で梃子(てこ)の原理を用い、少ない力で大きな裁断力が得られること、また相手の武器を引っ掛けて絡(から)め操(と)る特長があることなどから、古来高い殺傷力を有する武器として用いられてきました。中国風に言えば戈(ほこ)・戟(げき)、日本風に言えば片鎌槍・十文字槍・薙鎌などはその代表例です。
いわゆる合戦では、通常山野がその舞台となるため、陣場を構築するに際してはまず繁茂する雑草や潅木の類を刈り払って見通しの良い環境を整備する必要があります。そのために陣鎌は便利にして不可欠な道具であり、かつ状況によってはそのまま敵と戦うための武器に転用することができる優れものです。鎌術という闘争の技術は、まさにそのような背景から生まれたものであり、その歴史は極めて古いと言えます。
琉球古武術の鎌術は、分銅鎖等をつけない鎌単体を用いての二丁鎌術である点に特色があります。もとより二丁の鎌を有効に使うためには左右の鎌を同時に操作しつつ、体の運用を適切に行う必要があり、他の武器種と同じく古伝空手の術理を応用したものが琉球古武術における二丁鎌術であると言えます。鎌術は空手における掛け手・繰り手系の技法であり、鎌術を修めることによって空手の掛け手・繰り手系の稽古に繋がり、同時に各技の原理的な意味合いや成り立ちを考察する事が出来ます。
徒手術たる空手の技法を最も端的かつ直接的に応用できる武器が鉄甲であります。そのゆえに鉄甲術は、徒手空拳たる空手の言わば総仕上げ的な意味合いで学ぶべき武器術になります。逆に言えば、鉄甲の使い方を学べば、そもそも武術たる空手の動きの何たるかが自ずから理解されることになります。形状としては、外側の突起を用いた突き・打ち・切りが出来るところに特色があります。
鉄甲は(特殊な使い方を除き)まさに空手の技法をそのまま応用できる武器であるゆえに、これを使用して稽古することにより空手の武術性・徒手術と武器術の表裏一体性・武術的思想の相互一貫性などを一目瞭然に体感することができ、かつ空手の各技法の鍛錬用具としても有益な効果が期待できる優れものであります。
ティンベーと言われる海亀の甲・籐製・木製・鉄製などの楯を左手に持ち、ローチンと言われる短槍を右手に持って攻防に備えます。ティンベーで相手を目隠し状態にし、その隙にローチンで攻撃する所に特色があります。
琉球古武術では、ティンベーとローチンを組み合わせてティンベー術と呼びます。武術に於ける捌き・受け(押し・流し)・攻撃の所作を流れるように無駄なく所作するべく、下記スルジン術と同様に、非常に高度な技術体系となっております。
鉄の武器としての特長は硬く折れず曲がらないところにありますが、それは同時に武器たる鉄の弱点とも言えます。そのゆえに、鉄がひとたび鎖の形状をとれば、柔らかく折れて自在に曲がる強力な武器となります。その特長を武器として活用したものが、例えば「鎖鎌」でありますが、スルジンの場合はその鎌に替えて鋭利な手裏剣等を取り付けたものと言うことができます。言わば、紐付き手裏剣と紐付き分銅を(紐ではなく)鎖で合体させたものがスルジンということになります。
手裏剣と分銅を鎖で繋ぐというアイデアにより、その攻撃方法にも様々なバリエーションが生まれました。例えば、分銅鎖で相手の武器や首を絡め、片方の鋭利な手裏剣で突いたり、または逆に手裏剣鎖で絡めて片方の鎖分銅で打つ、あるいは鎖を滑らせ分銅や手裏剣を伸ばして突く、または手裏剣や分銅を投げる、はたまた両手で鎖を強く張り相手の攻撃を受けて反撃するなど多様な技法があります。